誰にも知られない夜
彼に会ったのは丁度一週間前のことらしい
本当に、うん、本当に数世紀前のことみたいに思う
一週間前私は雪の降らない街にいて、帰ってきたらもうここは冬だった
違う世界線に飛ばされたんだと思う
確かに帰りの飛行機の搭乗員さんはやたら優しかった
今彼に電話を掛けても繋がらないような気がする
好きな人の顔はどうしても思い出せないようになっているらしい そう聞いたことがある
確かに触れた背中のなめらかさだとかは鮮明にこの手に思い出せるのに彼がどんな顔だったかよく分からない 分かりたくもない
雪国育ちはセロトニンが足りていないらしい
一面白で塗り潰されると眩しくて仕方ない
音もしない どこにも行けないような気持ちになる
雪が嫌でこの街を出たのに、結局また帰ってきてしまった
雪が降らないと、春までずっと秋なんじゃないかと思ってしまう 冬に咲く花などがある ぞっとする
20回ほど冬を経験しているはずなのに冬が来るといつもびっくりしてしまう あ、本当に来るんだ、と思う
冬に聴く夏の歌が一番美しい
病院に行くとセロトニンが薬で貰えるらしい
昨日友人の家でアルバムを見て彼の写真を見た、余りに若くて笑ってしまった
誰もきっと掛けてくれないけど、今私に電話をしてきてくれたら、結婚してあげます