嫉妬されるべき人生

今なら彼に好きだと言える気がする

 

どうせ何もかもいつか消えてしまう、彼も、私も、いずれ死ぬ、彼や私を知る人もいなくなる、思想も、感情も、全部なくなる

それなら、今生きている人に、同じ世界にいる人に、伝えるべきなんじゃないか

生きているうちに、会おうと思えば会えるうちに、会いたいと、好きだと言ってもいいんじゃないか

 

綺麗じゃなくていい、結ばれなくても、少しでも私や彼にとって驚きや変化が起こればいい、全部消えてしまうのだから

 


確かにこれから先色んな人に出会ってきっと私は変わっていって、彼以上に他の誰かに恋焦がれることがあるかもしれない

それでも、私に目標を抱かせたのは彼で、今日までの数年間私を生かしてきたのは彼だ


今日その日を死なずにいることだけに必死だった私に、明日のこと、次の季節のこと、これからもっと歳をとること、将来への道を照らし、その存在を教えてくれたのは彼だ

 


このときめきや切なさが、確かに私に「前を向け、歩き続けろ」と言っている

 


報われなくても、綺麗じゃなくても、彼に出会い、彼に恋をしたことは、私の人生において最大の成功だと断言出来る

 


ほんの小さな選択も、後悔も、勇気も、間違いじゃなかった

 


忘れたくない、ずっと好きでいたい、今日、私を私たらしめるのは彼だ、みっともなくても、情けなくても、生きてやる、もう何も後悔はしない

Die fröhliche Wissenschaft

私は無宗教である

クリスマスを祝うし、御朱印集めもする、無宗教が故に


一時期、もうかなり参っていて何も手につかず生きていく気力がほとんどなかった時に、どこか宗教に入ろうかと本気で考えたことがある

何かや誰かを何の疑いも無しに信じられる質ではないのだが、何か、誰かを信じることで今日を死なずに生きていけるのではないかと思ったからだった

とりあえず一度ミサに行こう、と思ったのだが、当時土曜は夜勤で、日曜の朝からの活動が難しく断念した

 


彼と出会い、離れてから、ほとんど信仰に近い形質と強度を以て彼を愛していた

強度は変わらない、寧ろ増強しているにせよ、再会してから形質は一切変わってしまったと思う

当たり前のことなのだが、彼が「人間」だということに気付いたからだ 神ではない

ただそれが私にとっては問題で、彼が人間、同じ世界線に生きていると気付いてしまうと、手が届くかもしれない、という期待をどうしても抱いてしまう

そして諦め、諦め切れず、一人で悶々とすることになる

どうせなら神でいて欲しかった

 


彼はクリスマスをどう過ごすのだろう どうもしないのだろうけれど どうもしないんだったらいいな

今クールのドラマが終わるらしい

然して真剣に見ていた訳では無いけれど、ぞっとする

私の好きな映画も11年目にしてシリーズが終わる、どうしてこうもみんな終わりを作りたがるのだろう、そんなこと決めなくたって全部終わって全部無くなって全部忘れちゃうのにね

 


ちょっとしたことでみんなごめんとかありがとうとかどうして言えないんだろう、みんな自分が悪いと思いたくないのだろうね、全部私のせいみたいに言うから、何でも自分が悪いと思う人間に育ってしまった

本当にちょっとしたことで泣きそうになって堪らなくなる、綿で怪我をする、心配や気遣いとされる手榴弾をぶん投げてくる、怪我をする、涙が出る、立ち上がれなくなる

 


ふと、なにもかも自分の思い込みかもしれない、と思うことがある

自分が理解していると思っていることや、誰かを愛しく思うこともみんな勘違いかもしれないと思う時間がある

だけれどそれが私の全てだ、精一杯だ

今日も泣かないし、誰も責めないし、誰に電話も掛けない

 


早く起きたら病院に行こう、心は思うように動かないから、体をどうにかするしかない

hectopascal

どれだけたくさん本を買ったって、人のお勧めを聞いたって、結局自分の好きな本を何回も何回も読み返してしまう

小説の中の彼らは何も変わらない

何十年経っても何度読み返しても同じ人と結婚したり失恋したり自殺したりする いいなあ、と思う

「特別」や「好き」が分からない女の子たちの話があって、彼女が恋をするのは、その相手が「特別」を知らないから、何も変わらないから安心して好きでいられるらしい いいなあ、

 


人を嫌いになることがまず無い

大抵の人がどういう人で、私にどう居て欲しくて、それが分かる

それだけでいい、それ以上は何も知りたくない、悲しいけれど私は人に興味が無いんだと思う

人を憎んだり憎まれたりするひとはいいなあと思う、私だったら、めんどくさ、と思ったらすぐに切り捨ててしまう それが正しいのかどうかは分からないけれど

好きも同じ、誰の人生も思考も邪魔したくない、みんな私のこと忘れてしまって欲しい

 


なんにも変わらない、綺麗なまま、誰も私を好きにならなくて必要としなくて、そうだったらいいのに、私はなんにも変わってないよ

まだ死んでないよ

愛読している漫画の最新刊がやっと出た

とても複雑な話だから、前巻を丁寧に読み返して、同じシーンでまた泣きそうになって、そこで友人から「着いたよ」と連絡が来た


お互いにかなり疲弊していたから、話したいと思っていても少し気を遣ってしまっていたのだけれど彼女から「明日会える?」と言ってくれて嬉しかった

ここ数ヶ月でいくつもの約束を断ったみたいだが、私には会ってくれていたじゃない、それだけで凄く嬉しい 会えるなら会おう


お酒を飲んで、コーヒーを飲んで、煙草を買って、カラオケに行って朝まで歌った

いつもよりお互いに丁寧に選曲をして、それを丁寧に聴いた 切実で真っ直ぐな歌が、私たちに寄り添ってくれる歌がこんなにもたくさんあるんだ、


カラオケを出てコンビニで親子丼を買って食べて、駅の近くの歩道橋にしゃがみこんでまた話した

私たち、こんなにいい子なのにね、人に甘えたり当たったりできる人はいいよね、私たちいなくなったらどうするのよ、そうなってからじゃ遅いよ、今すぐ泣いてみせてよ、ありがとうって、ねえ

そんなことをずっと言って大声で笑った 笑えば笑うほど泣きそうになった

 


どうする?これから、どう生きたらいいのかな、悲しみは消えない、体は言うことを聞かない、どうしようね、歌うしかないね、忘れてた、そうだ、歌うしかないんだ、私には

 


帰って、少し迷ったが、最新刊を読んだ

瀕死の人間を完治させる能力を持つ女の子の話だ


「君は正しすぎる」


そう言い残して彼女の大切な人は自殺した

そうだよね、良かれと思って一生懸命やってきたのにね、そうすることしか出来なかったのにね、

 


彼女を救ったのは「君の能力なんて欲しくない、その優しさだよ、その悲しみが必要なんだよ」という言葉だった

 


この優しさや悲しみが、いつか、私を救ってくれるのだろうか

全部

 

大きな家を買って

二人で暮らせるだけの家具を揃えて

玄関とお風呂は広め

ポメラニアンと三毛猫も飼って


毎日おかえりって言うから

ただいまって言って美味しそうにご飯を食べて

ちゃんと寝息を聞かせて

死んだと思うから寝返りを打って

私よりあとに起きて

眠たそうな顔をして

眼鏡を渡してあげる

 


涙を流す暇もないほど愛おしい笑顔を私に見せて

さみしい思いをさせたぶんたくさん抱き締めて

早く帰ってきて

私と結婚して

 


全部許してあげる

 


あなたが先に死んでしまっても

追いかけないから、待っていて

あなたは私の知らない女の子を、

私も最初の男に抱かれて川を渡るから

私の嫌いな色のシャツも

無駄な指差し確認も

行動が伴わない言葉も

全部愛してあげる

全部許してあげる

本能

昨日あたりからやたらとうちの猫が私に甘えてきたり、じっと私を見つめてきたりする

撫でるのをやめると顔をぺちぺち叩いてくる

彼女もさみしくて私でそれを埋めようとしているのか、私のさみしさを感じとってそうしてくれているのかは分からない

ただたまに、誰かが彼女に乗り移っているような気持ちになる

それが誰なのかは分からないし、誰であってもいいかな、とも思う

 


なんでもないような顔で左手の薬指に指輪をしている

誰を思ってなのかは、自分でも分からない

 


友人に勧められた本を読んだ

人に勧められたものを好むことが余りないので避けてきたが、今は誰かの好みを知ることが心地良い

人の好きな音楽を聴きながら本をたくさん買った

人に会う度に好きな本や作家を聞いたりなどしている へえ、と思う

ある人が、本を読むのは人に会った時にそのことについて語り合うためだと言っていた その通りだと思う そのおかげで私は恋人がいるのだから

 


周りの人は余り気付いていないと思うが私は劣等感がかなり強いと思う

一対一で話している時は平気なのだが三人、四人となると自分の知識の無さに不甲斐なくなる

所謂進学校と呼ばれるところに通い、結局落ちこぼれたがプライドだけはぶくぶくと成長していた

知らないことがあることが怖い 馬鹿だと思われるのが怖い どんどん馬鹿になっていく自分が怖い(ここでの馬鹿は決して可愛い意味ではない)

私みたいになりたい、と言う子がたまにいるが、全くお勧めできない のびのび生きているように見えるのだろう 周りを気にしない、というスタンスを取っているように見せかけて、何も考えていない、何も出来ない自分を正当化しようとしている、そう悟られないようにしているに過ぎないのだから

 


先日恋人に、文章を書き始めた、と言ったら、君は暗いことばっかり書いて自分を追い詰めそうだから気をつけて、と言われた 全くだ

リスカもしてないし、お酒もそんなに飲んでない、大丈夫だと思う